【コラム】相続時精算課税制度と国際贈与

日本の贈与税の課税制度には、以下の2つの方式があります。
 原則  暦年単位課税制度(超過累進税率)
 特例  相続時精算課税制度(比例税率)
今回は、特例である相続時精算課税制度の基本と国際贈与への応用をご紹介します。

1.相続時精算課税制度

【概要】
相続時精算課税制度(以下「本制度」)は納税者の自主的選択によって適用される制度で、贈与財産の価格の多寡にかかわらず一律20%で贈与税が計算されます。さらに本制度の下での贈与は、期限内申告を条件として、贈与財産価格の累計が2,500万円に達するまでは贈与税額が生じないのですが、2,500万円を超えた後はすべての贈与に常に20%の税率で贈与税が課されます。
最も重要な注意点は将来の相続税の計算であり、本制度下での贈与財産は全て、贈与当時の価格で将来の相続税の課税価格に加算されることです。
なお、相続時精算課税制度の選択が認められるのは親子や祖父母と孫の関係など直系の親族関係など一定の関係に限られます。選択の中途撤回は不可能とされていますので、本制度の適用選択には慎重な検討が必要といえます。

以下に、基本Pointと注意点を整理します。

(1)税額の計算構造
 贈与税:(贈与財産価額の合計額△特別控除額(累計2,500万円まで))×20%
 相続税:①(相続財産価額+相続時精算課税が適用された全ての贈与財産の価額)=課税価格
     ② ①に対する相続税額 △ これまでの相続時精算課税制度に係る贈与税額
(2)適用対象者
 受贈者  贈与者の推定相続人である子及び孫で、贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上(注1)である者
 贈与者  贈与をした年の1月1日時点で60歳以上(注2)である父母又は祖父母(注3)
(注1)令和4年4月1日以後は、18歳以上となります。
(注2)住宅取得等資金の特例で、贈与者が贈与をした年の1月1日時点で60歳未満であっても相続時精算課税制度を選択可能です。
(注3)非上場株式等の贈与税納税猶予を適用する場合は、贈与者が60歳以上であれば、父母又は祖父母以外の者からの贈与であっても相続時精算課税制度を選択可能です。

(3)手続 受贈者が贈与税の期限内申告書に『相続時精算課税制度選択届出書』を添付して税務署提出
(4)適用対象財産  贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。
(5)注意点
 ①いったん相続時精算課税を選択すると生涯適用となり、暦年課税へ戻ることが不可能です。
 ②本制度を選択した年以後は、贈与事実があったなら必ず贈与税申告が必要です。
  ★上限2,500万円への到達前でも、2,500万円を超過後の少額贈与(数万円の現金など)でも
 ③本制度で贈与を受けた財産が滅失等しても、贈与当時の価格で相続財産に加算されます。
 ④相続時精算課税制度を利用して贈与した場合で、受贈者(もらう人)が贈与者(あげる人)よりも先に死亡
  した場合は、贈与した部分が持ち戻しされて二重課税になり、通常よりも多く税金を支払うこととなります。

Column ~事業承継と株価変動リスク~

相続時精算課税制度は、オーナー会社の事業承継における株式贈与の場面で活用されています。
ただし、将来の相続時に会社の株式評価額が低下した場合には、税額が不利になるリスクがあります。
<計算例>
  父が子Aに自社株式2,000万円を贈与し、相続時精算課税制度を選択しました。
  1年後に父が死亡。相続人はAのみで、相続財産は現金3,000万円のみでした。
  ※なお、前年に贈与した自社株式の相続時点の評価額が500万円

  相続税課税財産2,000万+3,000万=5,000万 ∴相続税額 160万円 贈与税額0円

  もし株式を生前贈与しなかった場合、次の通りに計算されます。

  相続税課税財産500万+3,000万=3,500万  ∴相続税額   0円 贈与税額0円
                       差引 160万円不利!

2.国際贈与への応用Point

  • 贈与財産が国外財産の場合や受贈者が日本国外に居住する場合にも、相続時精算課税制度の適用が可能です。
  • 住宅取得等資金の非課税特例は、日本国内の家屋を目的とする贈与に限られます。
  • 贈与税の外国税額控除が適用される場合があります。
  • 贈与税の納税義務者が日本に住所を有しない場合には納税管理人の選任と届出が必要です。
  • 株式等(内国法人、外国法人問わず)を日本国外に居住する者に贈与するケースでは、国外転出時課税制度
    (所得税)も適用されることがあります。
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